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今、モノづくりの過程を「見える化」と称して可視化(注1)、数値化し、技やノウハウを共有化した り、さらには自動化して人を減らそうという動きが盛んになっています。けれど、この過程には大きな 危険が潜んでいることを認識しなくてはなりません。
モノづくりには、手づくり、手作業の要素が非常に重要です。経験、約に基づく技は体で覚えるしかあ りません。見える化しようとすると、すべての作業をデジタル的に数値化することになります。しか し、勘や経験による手作業は数値化できません。また、どんな思いを込め、どんな気持ちでつくってい るかという心の部分は数値にしょうがありません。
(中略)
見える化の過程には「省略」と「変形」が起きる危険性があります。怖いのは、一度、仕組みができ上 がると、それが元の実態であるかのような錯覚を起こし、一人歩きしてしまうことです。見える化されたものは、元々の姿からアナログの部分が省略され、変形しているのです。これに気付かなければなり ません。
もう一つの危険は創造が起きなくなることです。ある職人の技があったとします。これを見える化して も、そこからは何も新しいものや価値が生まれているわけではありません。
匠(注2)の技とは、自分で経験を積み、手で触り、頭で考えている中で、「こうしたほうがいい」 「こんなやり方があるな」と気付き培ってきたものです。つまり、手作業のプロセスの中にこそ創造が あるのです。
今のやり方を見える化、自動化し、手作業のプロセスを抜いてしまえば、新しい技術は生まれません。
(注1) 可視化する:目に見えるようにする
(注2) 匠:優れた職人