シアノバクテリアと藻類が誕生し、地球上を酸素で満たすまでには 20 億年以 上の時間を要したのに対し、現代人が地球環境を大きく変えるようになったの は、たかだかここ 100~200 年のことである。光合成生物が大気環境を変える のに費やした時間と比べると、人間が環境を変えた時間はあっという間といえ る。そのため、大昔の非常にゆっくりとした大気環境の変化は、当時の生物た ちには適応するのに十分な時間があったが、今の急速な環境変化には、多くの 生物種が適応できずに絶滅する可能性が高いかもしれない。そのため、人間は ①大きな問題を起こしているのだ、という人もいるだろう。
ところが、地球の長い歴史の中では、人類の活動よりも短時間で地球環境を 大きく変え、生態系を非常に大きく攪乱した事件があった。今から 6500 万年 前の中生代白亜紀末の大隕石の衝突である。これにより飛び散った破砕物が大 気中で浮遊し(注 1)、太陽光の地上への到達を妨げたといわれている。それ が植物による光合成を強く抑え、また地上の寒冷化を引き起こしたと考えられ ている。そしてこのとき、当時優占していた(注 2)恐竜をはじめ、多くの生 物が絶滅することになった。ところが、これほど急激で大きな生態系の攪乱に 直面しても、生き残ったものがいた。そして、その生物たちは、新たにつくら れた環境に適応しながら、多様な生態系をつくってきたのである。
②このことを考えると、生物というものはとてもタフで、打たれ強いもので あることがわかる。すると、今、人類が強い力で地球環境を変えて生態系を大 きく攪乱しても、人類は滅びるかもしれないが、その急激に変化する環境をう まく生き抜き、新たにつくられた環境の中で繁栄する生物種が必ず出てくるに 違いない。そして、生物がそこに存在することができれば、そこには生物たち の相互関係が生まれ、食物連鎖がつくられ、きちんと機能する生態系がつくら れるのである。そして、その新しい生態系をつくっている生物たちの中には、 「大昔、ヒトという生物がいて、彼らは我々が住みやすい地球環境をつくって くれたとてもありがたい生物だったんだよ」と、子孫に語り継いでいるものも いるかもしれない。
このように考えると、生態系の善し悪しを考えるときには、誰を中心にする か、いつを基準とするのかによって評価が大きく変わることがわかる。したが って、議論をするときには、その基準を決めなければならないだろう。
(注 1)浮遊する:浮かび漂う
(注 2)優占している:ここでは、数が多い