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かなり前、職人は「仕事は盗んで覚えるものだ」といっていたと伝わっている。私も若いころ、その話に近いことをいう職人たちと働いたことがある。
しかし私は、そう豪語する
(注1)人に限ってさほどの
(注2)技量を持っていないと思っていた。いい仕事をする人は、仕事を覚え始める人には親切に基本を教えていたし、少しは仕事ができる人に対しても、①
その人にとって初めての仕事ならば、やはり道具や機械の扱い方、手順
(注3)などを分かりやすく話すという光景に出合っている。
どうしてそうするかといえば、いい仕事をする人ほど、その仕事の一番大切なところは教わって覚えられるものではないと分かっていて、だからこそ、その最後のところを早く分かってもらえるように、教えられる基本の部分は教えようと考えるのだと思われる。また、自分の仕事能力に自信があるから、教えることを惜しまない
(注4)。力がない人ほど、教えようにも何を教えたらいいのかが分からず、教える方法を知らない。また、教えると自分の競争相手を作ることになると考えて、教えることを止めてしまう。②
「そんな」と思うかもしれないが、結構そのタイプの人がいた。いまも、いる。
(森清『働くって何だ 30のアドバイス』岩波書店による)
(注1)豪語する:自信があるように見せて、大きいことを言う
(注2)さほどの:それほどの
(注3)手順:何かをするときの順番
(注4)惜しまない:もったいないと思わないで、どんどんやる