(1)
 人間は成長するに従い、何度も皮をないて新しくなる。
 この脱皮(だっぴ)をさせてくれる助けはいろいろあるが、本はその大きなキッカケの一つである。あなたがある本とめぐり合って、その中にある一つのコトバが、何か心にかかりながら、そのときは過ぎてしまう。何年かたってふと思い出し、「そうか、そういうことだったのか、ほんとだ、あの著者のいいたかったのは、こういうことなんだな」とわかる、そのとき、あなたは一つの脱皮をなしとげる。①そういうことが何度もいろんな本でおこなわれると、その蓄積は次第に厚く深くなってゆくだろう。人生経験を積み重ね、それを裏打ちして自分にプラスしてゆくには、どうしても読書が必要になる。
 とにかく言和をたくさん知ることが望ましい。私たちはコトバを使って考えを組立てる。②積本の数は、なるべくたくさんでなければならない。さまざまな形のものも欲しい。本を読むことで、それらはいくつもできる気がする。口下手(注1)でコトバをすぐ唇にのぼせられない(若いときはそういうことが多い)人も、あたまの中にコトバがひしめいている(注2)。 それでよいのだ。

(田辺型子「読むことからの出発」 講読社現代新章による)


(注1) 口下手 : 話すことが苦手なこと
(注2) ひしめいている : すき間なく詰まっている

1。 (60) ①そういうこととは、何か。

2。 (61) この文章で、②積本とは、何のことか。

3。 (62) 筆者がこの文章で一番言いたいことは、どんなことか。