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相手が何者かよくわからない社会では、無視黙殺するほど危険なことはない。見知らぬ他人というのは、潜在的な敵
(注1)である。そう思えば、相手を敵にまわさないためには親しくなるしかない。だから
初対面の相手とはせわしなく(注2)言葉を交わし、「わたしはあなたに敵意はないよ」「だからあなたもわたしに敵意のないことを示してくれない?」とメッセージを送る。あかの他人というものから成り立っている社会では、そういうコミュニケーションの作法が発達するのだろう。
(上野千鶴子「国境 お構いなし』 朝日文庫による)
(注1) 潜在的な敵 : 敵になる可能性のある人
(注2) せわしなく : 落ち着かない様子で