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人生の経験を積んだ者は、同じ出来事に章遇しても、また同じ風景を眺めても、そこから得る情報量が、若者と較べると格段に多い。だから老人の場合は、同じ長さの時間の中に詰まっている内容が充実していて、一刻一刻が①濃害な質量をもっている
(中路)
 老人がボーっとなにかを眺めているのは、なにもすることがないから、ではなく思い出すことが多過ぎて忙しいからなのである。時間が早く経つのは、そのせいではないか。若い頃は、いつもヒマを持て人していたものだ。なにか、面白いことはないか。 どこかへ行けば、なにかが見つかるだろうか。やれといわれたことをやるのは嫌だが、かといって自分からやりたいことは見つからない。退避を紛らわす術も知らず、風景を眺めても空虚(注1)で、時間を満たす材料があまりにも少なかった。いま、②あの年齢に帰れといわれたら、私は殺座に断るだろう
 若い頃に悩むのは、先が見えないからである。 自分にどのくらいのカがあるのかもわからず、どんな未来が開けているのかもわからない。先がわからないことを夢と言い換えて有団めてみても、その夢が虚ろなものであることはうすうす感じている。あんな時代に、二度と戻ってたまるものか(注2))。夢は潰れて現実となり、その繰り返しの末に人生が現実ばかりで満たされるようになることが、歳をとるということにほかならない。ふたしかな夢を見ずに済むことが、いかに心に平宴(注3)うをもたらすものか、歳をとらなければわかるまい。
(注1) 空虚だ: むなしい
(注2) 二度と戻ってたまるものか : 絶対戻りたくない
(注3) 平安: 安らかさ

1。 (56) ①濃害な質量をもっているとあるが、なぜか。

2。 (57) ②あの年齢に帰れといわれたら、私は殺座に断るだろうとあるが、なぜか。

3。 (58) 歳をとるろことについて、筆者はどのように考えているか。