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すべての音楽体験の原点となってくれるのは、まだどんな言葉も湧き上がってこないような、純粋に感覚的な「第一印象」以外にありえないだろう。一体自分はその音楽にどう反応しているのか。まったく何の興味も感じていないか、何とはなしに居心地が悪いか、それとも気になってはいるのだが、まだうまくそれを言葉に出来ないでいるのか。音楽体験において一番大切なのは、他人の意見や世評などに友わされず、まずは自分の内なる声に耳を澄ませてみることではないかと、私は考えている。
自分が音楽にどう反応しているかをきちんと聴き取ってあげる一一実はこれはそんなに①科単なたことではない。マスメディア時代に生きる私たちは、音楽を聴くより以前に既に大基の情報にさらされているし、知らないうちに「音楽の聴き方」についていろいろなことを刷り込れている(注1)。それに他人の意見や反応だって気になる。そして私自身が音楽を聴くときの目安にしているのは何かといえば、それは最終的にただ一つ、「音楽を細切れにすることへのためらいの気持ちが働くか否か」ということである。細切れとはつまり、演奏会の途中で席を外したり、CDなら勝手に中断したりすることだ。何かしら立ち去りがたいような感覚と言えばいいだろうか。音楽という不可逆にして不可分(注2)の一つの時間を、音楽とともに最後まで共体験しようという気持ちになれるかどうか。自分にとってそれが意味/意義のある音楽体験でちあったかどうかを測るサインは、最終的に②これ以外ないと思うのである。
(注1)出り込まれる:ここでは、身に付けさせられる
(注2)不可逆にして不可分の:逆戻りできない上に、分けられない