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 人工物は人間がある意図のもとにつくり出されたものであるのにも関わらず、その社会に与える影響は設計者の予想を越える場合があり、人工物が人間社会の舵とりを行なう(注1)現象が起きている。たとえばコンピューターは「計算機」という日本語が示すように、当初は計算を行う機器として製作されてきたが、現在ではデーターベース(注2)やコミュニケーションなど、さまざまな用途に用いられ、生活環境を大きく変えてきている。
 このように現代における人工物の大きな影響力を考慮する時、設計者はこれまで、以上に人工物のもつ社会的意味を頭に入れ、積極的に設計者の意図を人工物にもたせていくことが必要だと思われる。これからの科学技術、そしてモノ作りにとって何より必要なのは、いったい、これからわたしたち一人一人がどんな生活を送り、どのような社会を作り上げたいのかというビジョン(世界観・価値観)であり、設計者は常にこのビジョンがどのようなものであるか考え、人工物にその価値観をもたせることが必要だと思われる。
 しかし、設計する人々は、一方では、自分の考えとは別に社会の欲する製品を設計することが要求される。マーケットニーズのない製品は売れないからである。こうした場合に設計者が自分の価値観をマーケットニーズとうまく調和させる(注3)ために、設計者の価値観が購買者(注4)の価値観とのなんらかの共通性をもつ必要がある。そのために設計者は社会の状勢(注5)をよく理解し、将来の社会についての予測をたて、人々の価値観を調査したうえで、設計者としてのビジョンをもつことが求められるだろう。

(注1) 舵とりを行なう:進む方向を決める
(注2) データベース:ある目的に合わせて集めた大量の情報
(注3) 調和させる:合わせる
(注4) 購買者:ここでは、消費者
(注5) 状勢:状況

1。 (66)コンピュータの例を挙げて、筆者が述べていることは何か。

2。 (67)筆者によると、設計者が人工物を設計する時に必要なことは何か。

3。 (68)売れる製品を作るために、設計者はどうすればいいか。