「できたよー。」という順子の高い声でテーブルにつくと、筑前煮があった。いろいろな野菜を鶏肉と一緒に煮てあり、結構(注1)本格的に(注2))作られているようだ。
「すごいじゃないか、お前、こんな料理をいつ覚えたんだ?」
「へへー、この間、裕子おばあさんに教えてもらったんだ。」
それは私の好物(注3)であり、妻の得意料理だった。妻が亡くなってから今日までの1年半わが家の食卓に①姿を見せたことがなかった。今日は私の誕生日なので、順子が頑張って作ってくれたのだろう。また小学6年生だというのに、自分の寂しさを隠して、私のことを気遣って(注4)くれているのだ。
②こんなことを考えていたなんて。「お父さん、今日は簡単なものにするね。」と言っていたのに。私は胸が熱くなり、しばらくの間、箸を動かすことができなかった。
(注1) 結構 : かなりな程度であること。
(注2) 基本的に : 正当な方法。
(注3) 好物 : 好きな食べ物。また、好きな物事。
(注4) 気遣う : あれこれと心配すること。