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ご近所トラブルは、古くて新しい問題だ。(中略)
警察庁の統計によると、昨年、近隣関係や家庭などをめぐり全国の警察に寄せられた安全相談は約16万6千件。07年の約13万件に比べ3割ほど増えている。
騒音問題など近隣トラブルに詳しい八戸工業大学の橋本典久教授(音環境工学)は、「マンシヨンの床は以前より厚さが増し、騒音対策もされたのに苦情は減っていない。
音に対する感性が変わり、敏感(注1)になっている」と指摘する。
橋本教授によると、15年ほど前から苦情件数は増え始め、00年ごろからは学校や公園で遊ぶ子どもの声への苦情が目立ってきた。「セミやカエルの鳴き声がうるさいから何とかしろ、という苦情も行政
(注2)に寄せられる」という。
なぜ増えているのか。核家族化で各自が個室を持ち、近所の人を自宅に招いてお茶を飲むような機会も減っている。目白大学の渋谷昌三教授(社会心理学)は「他者をもてなす場
(注4)でもあった縄張り
(注5)に人を入れることがなくなり、自分の殻に閉じこもる人が増えた」と分析する。
また、独り暮らしの高齢者などに見られる傾向にも注目する。「孤独な人ほど人と交わりたいという欲求が強まり、近所の人の言動が気になってしまう。『年寄りの繰り言
(注6)』という言葉があるが、しつこく苦情を言う人ほど、実はコミュニケーションを取りたがっているということかもしれない」と話す。
(朝日新聞2012年11月17日朝刊による)
(注1)敏感になる:感覚が鋭くなる
(注2)行政:国や役所など、公的なサービスを行うところ
(注3)核家族:夫婦だけ、または夫婦と子供だけの家族
(注4)もてなす:客を歓迎して、世話をしたり相手をしたりする
(注5)縄張り:自分の場所だと意識している範囲
(注6)繰り言:言ってもどうにもならない不満