(2)
人聞は、繰り返し練習することで、難しい作業であっても巧みに
(注1)素早くできるようになります。しかし、この能力が仇
(注2)となって、ミスにつながることもあります。
毎日変化のない仕事を大量にこなしていると、「次の仕事もいつものパターンと同じだろう」
と思い込む
(注3)ようになります。
普段は歩行者がほとんど無い横断歩道では、自動車のドライバーはあまり注意せずに通過します。歩行者は現れないと思い込んでいるからです。それゆえ、まれに歩行者が現れると際いてしまうのです。一見安全と思える場所でも事故が起こるのは、①
このためです。(中略)
思い込みによるミスは、深刻な結果を引き起こすことがあります。一旦こうに違いないと思
い込んでしまうと、その後に着手する作業が、なまじ
(注4)練習効果があるために、素早く徹底的に実行されてしまうからです。
間違いは無いと思い込んだ、まま、患者の取り違えに気付かず、心臓や肺を手術したという医療ミスの事例があります。このような事例のいずれの場合でも、途中で気付かれることなく、手術自体は完遂
(注5)されてしまいました。慣れている医師だからこそ仕事が速く、ミスに気付く前に手術が終わってしまうのです。
つまり②
玄人(注6)の方が危ないのです。むしろ経験が浅い方が、慎重になって時間がかかるので、完了する前にミスに気付けるチャンスが多いと言えます。
(中間亨『「事務ミス」をナメるな!』光文社新書による)
(注1 )巧みに:上手に
(注2)仇となる:害になる
(注3)思い込む:強く信じる
(注4)なまじ:(なくてもいいのに)少し
(注5)完遂:最後までやり終わること
(注6)玄人:その仕事が専門の人。専門家、プロ