大昔の人びとは、花に囲まれていました。だから、花をわざわざ表現しようと思わなかったのです。ところが、人間は文明を発達させるにつれて、自然をこわしていきます。そして、自然をこわせばこわすほど、人は①
花を表現するようになったのではないでしょうか。
森林や草地を開いて、垣根をつくります。垣根のなかには、木を植えたり草花を植えたりして花を楽しみます。建物のなかはいくつもの部屋に分かれた完全に人工的な空間です。この人工的な空間のなかで、人間は長い時間をすごすようになってきます。そうすると、殺風景な気分を和らげるために、そこに自然をもちこみたくなります。部屋の壁に花の模様を使ったり、花の絵を飾ったりします。生け花を飾り、鉢植えの花をもってきたりします。窓の外には花壇をつくります。
(中略)世界的にみても花の造形の歴史は新しく、とくに花専門の絵が出てくるのはわずか100年前のことなのです。このように花の造形の歴史がひじょうに新しいという事実の解釈として、知的な発達で人間は花を愛するようになったという解釈もあります。しかし私はむしろ、人間は自然をこわせばこわすほど花を愛するようになったのではないかと考えているのです。
(佐原真『遺跡が語る日本人のくらし』岩波ジュニア新書)