日本人は「r」と「l」の区別がつかない。「r」も「l」も「ラ」行に聞こえてしまう。①いくら英語の勉強をしても、この区別を聞き分けるのはむずかしい。これは日本人の耳が劣っている(注1)ということではない。同じような例は、欧米(注2)にもたくさんある。
(中略)
要するに、人間は文化という色眼鏡を通して、世の中を見ているということなのだ。たとえば日本人とフランス人に太陽の絵を描かせると、②日本人は太陽を赤で描き、フランス人は黄色で描く。そればかりか、日本人は太陽を赤いと思っているし、実際に、赤く見える。これは、「太陽は赤い」という日本文化と「太陽は黄色」というフランス文化の違いを物語っている。つまり「太陽が赤い」というのは、日本の文化が決めたものであって、それは世界の共通の認識(注3)ではない。
我々は文化が強制する(注4)ものの見方を知らず知らずのうちに身につけ、太陽を見たときにも「赤く」見えるのだ。同じものを見ても、同じ音を聞いても、文化によって見え方、聞こえ方が違うのは、目でものを見るのではなく、③文化という「色眼鏡」を通して見ているということなのだ。
このような文化が世界のあちこちにある。そのため、文化と文化が衝突し、④紛争(注5)が起こっているわけだ。異文化(注6)を頭で理解することはできる。しかし、心の底から理解して、たとえばネズミを食べる人と食事を同席していられるか、一緒にネズミを食べられるか、となると、かなりむずかしい面も含んでいると言えるだろう。
(樋口裕一『読むだけ小論文 発展編 改正版』学習研究社)
(注1)劣っている:ほかのものと比べてよくない
(注2)欧米:ヨーロッパとアメリカ
(注3)認識:理解していること
(注4)強制する:無理にさせる
(注5)紛争:争い
(注6)異文化:自分とは違う文化