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「香り松茸、味シメジ」なんていうけれど、スーパーで売っている人工栽培されたシメジの味気ないこと。椎茸だってエノキだって同じ。味&香りは、採れてから経過した時間に反比例するのだから、今さら愚痴っても始まらないのだけれど。

その点に、山をほっつき歩いて(注)見つけた茸は香ばしくて味が濃くて、おまけに見つけるまでの苦労や疲労や、吸い込んだ森の清浄な空気や、いちいち見とれた景色や、茸狩りの現場にやって来るのに費やした時間や金までが詰まっているのだから、ありがたいことこの上ない

同じ狩りと言っても、鹿狩りや猪狩り、熊狩りなどに比べて茸狩りは、ひっそりと穏やかで殺生の罪悪感を覚えなくても済むというのに、ハンティングの魅力を十分に持ち合わせてもいる。狩りの対象を探索しなくてはならないということは、すなわち見つからない可能性もあるということで、賭け事につきものの偶然を必然にすべく(茸の特性や現場についての)一定の知識経験や技術を必要とし、その上さらに、幸運を必要とするということなのだ。未知と偶然があり、運不運があることこそが、人を狩りに駆り立てる魅力ではないだろうか。

まあ、そんなわけで、山で採りたての茸の味を覚えてからというもの、スーパーの茸売り場はパスするようになった。

(米原万里『心臓に毛が生えている理由』角川文庫による)




(注)ほっつき歩いて:あちこち歩き回って

1。 (1)ありがたいことこの上ないとあるが、そう感じるのはなぜか。

2。 (2)茸狩りについての筆者の説明と合っているものはどれか。

3。 (3)筆者が述べていることと合っているものはどれか。