豊富な水に恵まれている日本で生活していると21世紀は石油ではなく水戦争が起こるなどと言われてもぴんと来ないだろう。地球には約14億立方キロメートルの水があるが、その約98%が海水なので実際に利用できるのは氷河や土の中の水を除くとわずか1%にしかならない。現在多くの国が水不足で困っている。世界の人口は約68億人、2025年には80億にもなるそうだ。対策を立てなければそれらの国だけでなくアメリカを始めヨーロッパ・アジア各地にまで水不足が広まるだろう。飲み水だけではない。水は作物を作るのにも必要なので食糧危機も起きる恐れがある。
シンガポールは最も水対策に力を入れている国である。以前は国内で使用する水の50%以上をマレーシアから買っていた。しかし以前の100倍の水料金の値上げを要求されたのをきっかけに自国で水を確保することにした。現在水の再利用、海水の淡水化、雨水の回収などを含む様々な計画を立ち上げて、世界中の企業や研究所を招いて事業を始める。将来90%の水を自国で供給できるようにするとともに、得た技術を世界に売り出して水ビジネスで莫大な利益を得ようと計画している。
水ビジネスは飲料水のペットボトルから家庭用浄水器、水道や下水道の設備、海水の淡水化装置など色々あって、市場は何十兆円にもなる。現在巨大メジャーのヴェオリア(フランス)、スエズ(フランス)、テムズヴォーター(イギリス)が50か国以上で事業を展開していて市場の70~80%を握っているそうだ。メジャーは施設の建設から、水の給水、料金の徴収、排水の処理などの管理・運営の全てを行っている。日本は水を浄化するときに使う「膜」やポンプなどの技術では一流だが、それだけでは水ビジネス全体の1%にもならない。ビジネスとしてはメジャーのように水の製造から販売までを含めた事業を売り込む必要がある。巨大メジャーには歴史があるが日本では水事業は公共団体がするべきだと言う考えがあって、ヨーロッパのようにビジネス化されなかった。2002年にやっと民間に開放されたのだから、施設の管理・維持の経験が不足している。これが技術がありながら日本がメジャーに遅れを取っている理由だ。日本の商社が関係した中東産油国での海水淡水化事業も、ほとんどが水メジャーとの共同プロジェクトである。ついにヴェオリアが日本の浄水場の運営や下水処理場の管理を始めたことも不思議ではない。日本の水ビジネスの遅れを取り戻すためにはかなりの努力が必要である。