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先日、大学時代の友人たちと、卒業して20年たった記念に、フランス料理の①レストランで食事をした。この店は予約が取れないことで有名で、夜のコースはスープからデザートまでどれも本当においしく、サービスも一流だった。だれかが「値段も一流だよね。」と笑わせた。
いつのまにか話は、今まで食べた物の中で一番おいしかった物は何か、に移っていた。「Tホテルのすし」「レストランKで食べたステーキ」など、有名なお店の料理が次々と出てくる中、山下君が「僕が今まで一番おいしいと思ったのは、おかゆだなあ。」と言ったので、みんな②びっくりしてしまった。
それは、彼が学生時代、アパートで一人暮らしをしていたころの話だった。ある時、風邪で40度の熱を出し、三日も大学を休んでしまったことがあったそうだ。熱が下がらず、ずっと部屋で寝ていたのだが、同じクラスの友達がようすを見に来てくれ、おかゆを作ってくれた。それまでは何ものどを通らなかったのだが、ようやく熱も下がり、初めて口に入れたのが、友達が作ってくれた③おかゆだった。お米だけで作った白くて柔らかいおかゆで、卵も野菜も何も入っていなかった。しかし、その時はそれが心からおいしいと感じられ、20年以上たった今でも④忘れられないのだと言う。
私が、彼の隣に座っている奥さんに「その友達というのは、良子さん、君だったんじゃないの?」と聞くと、奥さんは「実は、そうなんです。」と言って笑った。