(1)
娘がまだ3歳の時、田舎の小さなホテルに泊まった。朝早く、一人さきに目覚めた娘に起こされた。「おとうさん、早く起きて、ねえ、起きてよ。」
まだまだ目が覚めないわたしは①「もうすこし」といってふとんをかぶる。窓のところへ走っていく娘の足音。しばらくして、「お父さん、ねえ、こっちへ来て。」「ねえ、お父さん、きれいだよ。夕焼けの麻だよ。」
このことばに起き上がったわたしは、「えつ、何?」娘のところに行き、窓から外を見た。 そこには、赤い赤い、空が広がっていた。美しい朝焼けの空だ。
「ねつ、きれでしよ。おとうさん。」
「うん、きれいだね。」
娘は3歳。「朝焼け」ということばは知らなかったが、②自分の知っている日本語で目の前に広がる美しい景色を上手に伝えることができた。
人はだれでもことばを使って自分の気持ちを表す力を持っている、わたしはそう感じた。