(2)
 何であれ、一個の製品を完璧に仕上げるのに要求される技能は、たいへんなものです。そんな芸当(注1)が可能な職人の数は限られていることでしょう。作り出せる製品の数も、自然と限られてきます。ところが、作業工程を細分化してみますと、個々の工程は意外に単純だったりします。より単純な、一つひとつの工程であれば、きちんとこなせる職人の数は、製品をまるごと作れる職人の数に比べて、ずっと多くなるでしょう。また、未熟練だった職人が腕を上げる(注2)のも、より単純な一工程に限定しての話であれば、ずっと容易です。作業の細分化と役割分担、つまり分業化は、確かに①生産性を向上させるものなのです。
 一個の経済に属するということは、その経済に属する他の人たちと分業関係を取り結ぶことを意味します。あなたの仕事も、同じ日本に住んでいる面識もない誰かの仕事も、②同じ分業の網の目に属しているのです。
 今では分業関係は世界全体に広がっていますから、あなたがした仕事が、地球の裏側にいる誰かのした仕事と組み合わさっているということも、ざらにあります。そして、分業の網の目が全世界に広がり、たとえば一個の工業製品を生産するために、構想からデザイン、原型の製作、部品の製造、組み立てといったさまざまな作業が全世界に広がっている現代は、確かに人類史上最も豊かな時代なのです。

(徳川家広「自分を守る経済学」による)


(注1) 芸当:普通の人にはまねのできない技
(注2) 腕を上げる:技術を上達させる

1。 (53)①生産性を向上させる生産性を向上させる

2。 (54)②同じ分業の網の目に属しているとは、どのようなことを意味しているか。

3。 (55)筆者は現代をどのような時代だと考えているか。