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私たちは、日々、大量の情報を処理しなければならない現代において、本もまた。「できるだけ速く、たくさん読まなければいけない」という一種の強迫観念にとらわれている(注)。「速読コンプレックス」と言い換えてもいいかもしれない。しかも、楽をしてそれができるのであれば、言うことはない。巷に溢れかえっている速読法を説く本は、①そうした心理に巧みにつけこむ(注)ように書かれている。
もちろん、時と場合によっては、速く読むことも必要だろう。「明日までに大量の資料を読んで書類を作らなければいけない」といった状況下では、速読や斜め読み(注)は避けられないだろう。しかしそれは、単に一時的な情報の処理であり、書かれた内容を十分に理解し、その知識を、自分の財産として身につけるための読書ではない。単に、情報の渦の中に否応なく巻き込まれてしまっているだけで、自分の人生を、今日のこの瞬間までよりも、さらに豊かで、個性的なものにするための読書ではないのである。
読書を楽しむ秘訣は、何よりも、[速読コンプレックス]から解放されることである!本を速く読まなければならない理由は何もない。速く読もうと思えば、速く読めるような内容の薄い本へと自然と手が伸びがちである。その反対に、ゆっくり読むことを心がけていれば、時間をかけるにふさわしい、手応えのある本を好むようになるだろう。

(平野啓一郎『本の読み方スローリーディングの実践』による)


(注1) 強迫観念にとらわれている:ここでは、強い思し、から逃げられない
(注2)~に巧みにつけこむ:ここでは、~をうまく利用する
(注3)斜め読み: ざっと読むこと

1。 (50)①そうした心理とあるが、どのような心理か。

2。 (51) 筆者によると、速読をしなければならないのはどのようなときか。

3。 (52)筆者によると、読書を楽しむにはどうすればよいか。