(2)
以下は、ある日本企業の経営者が書いた文章である。
 現状維持でいい。そう思った途端、進歩は止まる。外の世界では、絶え間ない進化と発展 が続いている。何もせずに同じところにとどまっているのは、じつは最大のリスクなので ある。
 この国にもう、安全、安心、安定はない。自分は人生をどうしたいのか、会社をど う変えたいのか、この国をどうすべきか.........一人ひとりが日本の置かれた現実を直視しな がら、志高く毎日を真剣に生きないかぎり、未来も変わらない。そう言うと多くの日本人は反専的に、次のように思うかもしれない。(中略)
 「どうすればいいか、もっと具体的に教えてほしい」
 とりあえず「見本」のようなものがないと、何をやったらよいのか、見当がつかないのだろう。
 しかし、それぞれが置かれた状況によって、すべきことが異なるのは当然。ある人にとってはプラスのことが、別の人にとってはマイナスにつながることもあるかもしれない。
 そもそも私は、ノウハウ本なるものをまったく信用していない。そこに書いてあるのは、過去の成功法則でしかない。それをもとに時代に合致した新しい法則を考えるというので あればまだよいが、過去の成功例をそっくり踏襲して、うまくいくはずがない。いずれに せよ、情報が瞬時に世界を駆け巡るグローバル時代では、そうした成功法則は、あっとい う間に陳腐化(注1)してしまう。
 ただし、時代が変化しても普通的に通用する「考え方」というものなら、あるかもしれ ない。もちろんそれにしても、世の趨勢(注2)に影響されないことはない。しかし自らの視点 があるかないかで、目の前の風景はまったく変わってくる。

(柳井正『現実を視よ』による)


(注1) 陳腐化する:ここでは、古くなる
(注2)趨勢:動向

1。 (53)何もせずに同じところにとどまっているのがリスクなのは、なぜか。

2。 (54)ノウハウ本なるものをまったく信用していないとあるが、なぜか。

3。 (55)筆者によると、変化する時代を生きていくうえで必要なことは何か。