(2)
 大方の予想に反して、科学が飛躍的な成果をもたらす現場では、誰もが実生活の中で、体験する新鮮な驚きや、たわいのない(注1)、思いつきの類がその起点となっている。むしろ、科学の画期的な発明発見など、限りなく日常的で具体的なものごとが元になっているのである。(中略)
 しかし、日ごろの思いつきや驚きと違って、思いついて終わり、驚いただけ、ということにならないところが、要するに科学の特徴である。思いつきや驚きは、新しい確かな「ものの見方」へのきっかけでしかなく、科学とは、それらをとことん洗練する創意工夫の営みにほかならない。実は、創意工夫こそが、歴史上も、有数の科学者たちにみられる、かなり一貫した姿勢なのである。
 何かに驚いて、それまでは、当然だと思っていたことに、少し違った角度から眼差しをむけてみる。それだけでなく、違った角度から見えてきたことを首尾一貫(注2)させ、確かなものにすると、求めても無駄な望みだと決めつけていたことが、あっさりと実現できることに気づく。新鮮な驚き、些細な思いつき、そして、ちょっとした理解の修正をきっかけに、常識とは、少し違った「ものの見方」をしたとき、どこか一面化していた常識そのものがより豊かなものにならないか考えてみる。これが、科学を本当に発展させた人々に共通した姿勢である。

(瀬戸一夫『科学的思考とは、何だろうかーものつくりの視点から』による)


(注1) たわいのなし、:ここでは、小さな
(注2) 首尾一貫させる:始めから終わりまで、一貫しているようにする。

1。 (53) その起点とあるが、何の起点か。

2。 (54)筆者は科学における思いつきや驚きを、どのようなものと考えているか。

3。 (55)科学を発展させた人々に共通している姿勢は、何か。