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 十年絵を描いてきて、最近になってようやく筆の止めどころが、わかってきたかな、と思います。描きすぎずに筆を置くコツが少しずつわかってきた。
 最初のうちは、筆が多くなるものなんです。描きたいという気持ちが強いだけに、まだ、足りない。まだ、足りないという気になって、どんどん、描き出してしまう。だけど、それを無理して、セーブすることはないと思います。やっぱり、①とことん行ききっちゃったほうがいいんですよ。何事も。
 たとえば、空腹のときに腹いっぱい食べて満腹感というものを味わっておかないと、加減というものが、わかりません。人間、満腹のことを知っているから、これはまだ五分(注1)腹八分といったら、この程度だという加減がわかる。一回とことんやってみることで、抑えることや、行き過ぎないことの良さが初めてわかるものですからね。
 (中略)自分が描きたいモチーフそのものと対峠(注2)して、自分の感じたところで、筆を進めている分には、いいんですが、客観的にそれを見て、ここが足りない。あそこが、足りないと思って描き出してしまうと、やめどころが、わからなくなってしまいます。それは、自分が、どう見て、どう感じたかという気持ちを素直に絵にするということとは、違ってくる。②絵を説明してしまうことになる。そうすると、絵が、うるさくなります。
 客観的な目を持つことも、確かに大事なことではあるんですが、見たまま感じたままのストレートな気持ちを解説してはいけないと思うんです。
(注1) 五分:全体の50パーセント
(注2)対峠する:向き合う

1。 (50)筆者は、絵を描き始めた時、どのように描いていたか。

2。 (51)①とことん行ききっちゃったほうがいいんですよとあるが、なぜか。

3。 (52)②絵を説明してしまうことについて、筆者は、どのように考えているか。