銀杏(注1)が衣を脱ぐ時


 毎年、秋も深まって朝夕の冷え込みが厳しさを増す今時分になると、北の郷里の菩提寺の境内(注2)にある銀杏の巨
木のことが気にかかる。
 (41) 、その銀杏が老木だから、台風でもきたら大枝が折れやしないかと心配するのではない。 今年の落葉はもう終わったか、どうか。まだなら、落葉するまでにあと何日でらい間があるだろうか。そう思って (42) 。
 その銀査は大木だから、葉を厚く繁らせていて、秋の黄葉はまことに見事である。それに、落葉の光景も思わず息を和栓むなほどのものであるらしい。 私はまだ見たことがないから、予定が立つようなら、いちど出かけてみてもいいと思っている。けれども、銀査としても落葉の予測などつくわけがないだろ2う。
 一枚や二枚の落葉なら話は別だが、この銀査の葉は、短時間で一枚残らず落ちてしまうのだから。
 精が降りたのではないかと思われるほど冷え込みのきつい、かんと晴れ渡った(43) 。裏山から昇る朝日の光苦が、庫裏(注3)の屋根を乗り越えて境内へ降りてくる。
 まず、銀査の一番てっべんに朝日が当たる。(44) 、暖められた葉が一杉、ひらと枝先を離れて、舞い落ちる。それを合図に、陽を浴びた葉が次から次へと落ちはじめる。ひっきりなしに落ちる。
 銀杏は、しばしさわさわという落葉の音に包まれる。まるで分厚いこがね色の衣を足元へ脱ぎ落とすかのように、銀査はみるみる裸になっていく。
 銀杏に誠きたい。今年の落葉は(45) 。
(注1) 銀杏 : イチョウ科の落葉高木。中国原産
(注2) 境内 : 社寺の境域の内
(注3) 庫裏 : 寺の台所。転じて、住職や家族の居間

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