(1)
私は、「どうしたらわかりやすく伝えられるか」ということを常に考えていま す。
その一方で、「話を単純化しすぎてはいけない」ということも胆に銘じ
(注1)ています。
この兹ね合いが、結構難しいのです。扱うテーマに関して勉強を積み重ね、知識が増えるほど、難しくなります。
生半可
(注2)にしか知らないときのほうが、簡単にざっくり
(注3)単純化できたりします。でも、そのために結果として、全体像が見えずに歪んだ像を示したり、事実とニュアンスが違ってきてしまったりすることにもつながります。これはとても①
怖いことです。
それを防ぐには、どうしたらいいか。(中略)
まず、調べたいことを勉強して、誰かに話してみます。簡単に話ができたら、要注意。学部生レベルである可能性が高いからです。そこで満足せずに、さらに深い勉強をしてみましょう。すると、あら不思議。急に話が難しくなります。これが大学院生レベルです。いわば②「わかりやすい説明」に至るスランプのようなものです。
そこで挫折せず、さらに勉強を深め、「この話のキモ
(注4)は何なのか」を考え抜きましょう。すると、ある日突然、自分でも驚くほど、わかりやすい説明ができていることに気づくはずです。あなたは、その分野で、晴れて「指導教授」の立場まで成長したのです。学部生レベルの人の説明の間違いを訂正してあげることもできるようになったことでしょう。
最初の単純化で満足せず、さらに高みを目指すとスランプに陥る。そこを突破 すると、「わかりやすい説明」が可能になる。このプロセスが、キモなのです。
(池上彰『<わかりやすさ>の勉強法』による)
(注1) 胆(きも) に銘(めい) じる:決して忘れないようにする
(注2) 生半可:中途半端
(注3) ざっくり:大まかに、粗く
(注4) キモ:最も大事なところ