理系の文章は明確な目的を持っている場合が多いので、その目的に応じて読者は文章を読む。このため、日的に合致した文章は満足感を読者に与える。たとえば、「東京都の交通渋滞に関する調査報告書」はそれを知りたい人が読み、その内容が過不足なく記述されていれば100点の評価となる。調査内容が不十分であれば評価は下がり、満足感は少なくなる。
 しかし、もし著者と読者のあいだで、その文章を媒体として記述されていること以上の事柄が発見できれば、読者にとって最高の満足感となる。言い換えると、読者が新しい知能を発見する喜びを支援する、あるいはそのきっかけとなる文章こそが、100点以上の評価となる。それは著者と読者の①シナジー効果(二つのものから、それらの合計以上のものが生み出される効果)であり、それをもたらすには、著者は常に読者を意識し、読者とともに問題の解決にあたるという姿勢を持つことで文章に磨きがかかる。
 いくら仕事や理系の文章だからといって「AはBだ、覚えておけ』という姿勢の文章では読者の満足感は少ない。むしろ、読者は自分の無知を知り、自己嫌悪に陥り、一方、著者への親近感はなくなり、読む気がしなくなる。 文章の目的を達成するために大事なことは、読者が最後まで読んでくれることである。いくら素晴らしい内容が書かれていても、読者が読む気のしない文章は目的を果たすことができない。
 学生のレポートで、②それが一番よくわかる。なにしろ提出数が多いので、すべてを完全に理解しようとして読むことは不可能である。結局、最初の数行を説んで、あるいは全体を見渡して、読む気が起こるかどうかが評価に大いに影響する。これは、上司に提出する企画書や、コンペ(注1)に応募する提案書などでもまったく同じである。
その意味で、人の読む気を誘う文章であるかどうかは重要である。では、読む気とは何か。それこそがシナジー効果である。
(中略)
 読者が自力で新しいことを発見することの支援はなかなか難しい。むしろ、自分の思考過程を深く分析し、読者と一緒に考えようという姿勢を持つことが最も重要である。読者に与える完全な解答はなくても、解答に向かうひたむきな姿勢を示すことができれば良いのだということである。言い換えれば、ごまかしがなく、技巧を弄ばず(注2)、大げさにいえば著者の人生観を示すことで、真実に迫ろうという書き手の気持ちが読者に通じるのである。仕事の文学や理系の文章は、一般にはこういう行間の意味は不要と考えられているが、それでは無味乾燥の(注3)教科書文章となり、人の心に届かない。いくら人の③脳に届いても、心に届かないものは読む気がしなくなり、結局、読者の脳にも届かなくなる。
(注1) コンぺ:ここでは、仕事の依頼先を選ぶために企画を競争させるもの
(注2) 弄ぶ:ここでは、必要でないのにむやみに使う
(注3) 無味乾燥の:味わいがなくてつまらない。

1。 (59)①シナジー効果とあるが、読者にとってのシナジー効果とはどのようなものか

2。 (60)②それが一番よくわかるとあるが、何が一番よくわかるのか。

3。 (61)③脳に届いても、心に届かないとはどういうことか。

4。 (62)理系の文章の書き手はどのような姿勢を持つべきだと筆者は述べているか。