(2)
技術者にとってレース車を開発するというのは、非常に魅力があるようなのだ。
それはそうだるう。市販車の開発であれば、コストのことや工場のことを考えなければいけないので、自分の考え出した創意工夫を必ずしも反映できるわけではない。いいモデルを出したからといって、営業の力が弱ければ売れるとは限らない(少なくとも、多くの開発技術者はそう思って歯軋りをしている
(注1)に違いない)。しかし、レース車であれば、ある程度、採算無視で色んなことにトライできる。何よりも、営業力とか他の要素に邪魔されることなく、①
どんな大メーカーを相手にも対等に優劣を争うことができるわけだ。
逆にいうと、言い訳のない世界でもある。敵よりコンマ1秒でも送れとれば負けるのだ。そして、それは、はっきりとその場で日に見える。
(中略)
目標設定も単純だ。市販車開発なら、時にはアメリカと欧州の両市場で売れる車を作ってくれと営業から要求されたりする。そこでは 技術的に妥協せざるを得ないが、レースは絶対的な速さだけを日指せばいいのだ。その代わり、自分の実力が今どうであれ、敵の車が75秒でサーキット
(注2)を1周していれば、それより速いタイムで走る車をつくらないと意味(注2) がないのだ。②
出来る、出来ないを論じる余地は全くない。また、お分かりのように、地チームの車の真似だけをしていれば、決して「最速」にはならないのも真実なのだ。
(田中リー『ホンダの価値観一原点から守り続ける 0八』)
(注1) 歯軋りをする:ここでは、悔しく思う
(注2) サーキット:レース用のコース。