(3) 毎年、花の種を蒔いたり、球根を植えたりする季節が近づくと、種苗を扱う農園から、色刷りのカタログが送られてくる。私には植物を実際に取り寄せて植える土地などはないから、それを眺めて空想庭園を楽しむのである。しかし、それらの誇らしげに咲いている花の見合い写真を次々に見ていくと、連中
(注1)が一様にある傾向を有していることに嫌でも気がつく。つまり、すべての花を「品種改良」によって、より大輸
(注2)にし、そして何でもかでも八重咲
(注3)に造りかえてしまおうという、人間の趣味と努カと一種の意地が
そこに反映しているのである。
(奥本大三郎『虫の字宙誌」による)
(注1) 連中:ここでは、花のこと
(注2) 大輸:花の大きさが普通よりも大きいこと
(注3) 八重咲:花ぴらが数多く重なっていること