美味しい食べ物や美しい景色。お金や健康や愛。そういったものでは得られない持続的幸せ一ー。それを得るための必要条件は、「困難」です。困難のないところに、持続的幸せはないのです。
 困難というものがまったくなかったらどうなるか、ちょっと想像してみて下さい。欲しいものは何でも手に入る。したいことは何でもできる。すべての欲求が何の苦もなく満たされる。嫌なことは一切(注1)しなくていい。すべてが思い通り。そして、あらゆることが順調にいく。だから、「困ったな、どうしたらいいだろう?」と思うことなど、皆無。つまり、問題はまったく起こらない……
 「わ、いいな。そうなりたい」と思う人もいるかもしれません。
 確かに、短期間ならこういう境遇(注2)もわるくないかもしれません。しかし、来る日も来る日も(注3)そうだったとしたら?まちがいなく、退屈するようになるでしょう。そして、やがて耐えられなくなるはずです。
 なぜなら、そこには自分の能力を発揮する機会がまったくないからです。自分の能力を発揮すべきことが、何も起こらないのです。これほどつまらないことはない。それが毎日続いたら、まちがいなく退屈し、耐えられなくなるでしょう。
 そう、私たちが能力を発揮できるのは、困難(問題)に出会ったときです。そのときはじめて、能力を発揮する機会が与えられる。
 そして、自分の能力で困難を乗り越えることができたとき、面白さやよろこびを感じるのです。それは、何かからただ受動的(注4)に得られる面白さ・よろこびとは異なり、自分のカで獲かく得とくする面白さ・よろこびです。また、それは、「やった一」という達成感と、さらに、「自分にはやればできる力があるんだ」という同覚一ー「自己効力感」ーーをともなった面白さ・よろこびです。
 これが積み重なって、生の充実感と持続的幸はがもたらされる(注5)
 持続的幸せは、困難にぶつかりながら、自分の能力で何とかそれを乗り越えようと努力しながら生きていくことによって得られるものなのです。つまり、持続的幸せが得られるかどうかは、生き方の問題なのです。
(注1)一切:まったく
(注2)境遇:状況
(注3)来る日も来る日も:ここでは、この先ずっと
(注4)受動的に:ここでは、自分から何もしないで
(注5)もたらされる:得られる

1。 (71)困難がまったくない状態について、筆者はどう述べているか。

2。 (72)筆者は困難をどのようにとらえているか。

3。 (73)筆者によると、持続的幸せを得るにはどうすればいいか。