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以下は、読書の利点について書かれた文重である。
外の世界に触れずにいると、人はそれまで与えられてきたひとつの価値観を持ち、そこから脱出しようとしないことが多い。固定した価値観を持ってしまう。少なくとも、自分の狭い体験のみによって価値観を築いていく。
だが、読書をして教養を身につけることで、自分という一人の人間の経験や考えを中心にしながらも、それを絶対(注1)視せず、ものごとを相対化(注2)しつつ考えることが可能になる。
 確かに、初めのうち、新たに本を読むたびに新しい価値観に触れ、自分の価値観がぐらついてくることがあるだろう。読んだ本のすべてに感心し、自分の考えが暖昧になってくるわけだ。あれこれと知識が増えてしまって、何を信じればよいのかわからなくなってくる。
 だが、多くの本を読むうち、そのような時期は過ぎていく。だんだんと特定の本に感化(注3))されるようになってくる。そして、それに対立する本に反発を感じるようになってくる。すなわち、だんだんと自分の考えが明確になっていく。
 そうなると、本を読む前の固定的な価値観とは異なってくる。狭い自分の体験だけから判断するのではなく、反対意見も踏まえ(注4)、別の考え方も知ったうえで自分の考えが明確にできるようになってくる。

(樋口裕一『「教養」を最強の武器にする読書術』による)


(注1)絶対視する:ここでは、疑いのないものとして考える
(注2)相対化しつつ考える:他のものとの関係の中で考える 里
(注3)感化される:ここでは、景獲を受ける
(注4)踏まえる:ここでは、考える

1。 (63)人は外の世界に触れずにいるとどうなると筆者は述べているか。

2。 (64)そのような時期とはどのような時期か。

3。 (65)読書の利点について、筆者はどのように考えているか。