(3)
 従来(注1)、旅行業にとって顧客(注2)を喜ばせることは難しくなかった。 自分の行ったことがないところに行きたい、見たことがないものを見たい、食べたことのないものを食べたいというのが主なニーズであったし、長い休みの存在自体が旅行の動機になり得たからだ。だから参加者の多くは、そこに行って、
そこそこ(注3)の観光ができれば、十分に満足した。
 旅行会社は、価格を抑えるために人々を大量に効率良く(注4)送客すればよかった。北海道や沖縄、グアムやハワイ、アジアのリゾート地...場所の魅力を繰り返し伝えて刺激し続ければそれでよかった。しかし、そうして多くの人がさまざまな場所に出掛けるようになると、今度はただ行くだけでは満足しなくなる。目的が必要になる。行ってどうするのか、何ができるのかという目的が重要になる。
(中略)
 この流れは現在も続いており、旅の動機づけとしては重要な視点となっている。ただ、残念ながらそういうことをマス(注5)としてとらえることが、価値観の多様化のなかで難しくなってきている。個々の目的を一つに束ねてマスの企画にすることが難しいのだ。ブームが発生しづらくなっている状況と原因は同じであろう。

(近藤康生『なぜ、入は旅出るのか』による)


(注1) 従来:これまで
(注2) 顧客:客
(注3)そこそこの:まあまあの
(注4) 効率良く:ここでは、経費や時間をかけずに
(注5) マス:集団

1。 (66) 筆者によると、これまでの旅はどのようなものだったか。

2。 (67) 筆者によると、客は旅で何を重視するようになってきたか。

3。 (68) 筆者によると、旅行会社が難しいと感じている点は何か。