(1)
以下は、絵本の選び方について述べた文章である。
たいへん有効な一つの方法は、絵本を見るとき、子どもと同じやり方、つまり、字は読まず、絵だけで物語を追ってい くというやり方で、絵本を見ていくことです。わたしも、新しい本を手にしたときは、かならずこのやり方で見ることに していますが、そうすると、いろんなことが、とてもよくわかってきます。
字にたよらず絵だけ見ることは、わたしたちの心を、必然的に
(注1)、単純で具体的な考え方のレベルにとどめて
(注2)くれますし、当然のことながら、絵の中に意味をさぐろうとする心の働きを強めてくれます。そうして見ていくと、絵そ れ自体が何かを語りかけてくれる場合と、文を読んでからでなければ何の意味ももたない、いわば装飾的な
(注3)働きし かしていない場合とが、実にはっきりしてきます。絵が何かを語りかけてくれないものは、ほんとうの意味では絵本とは いえないので、こうして見ていくと、体裁
(注4)に絵本でも、①
絵本とは呼べないものが少なくないことがわかってきま す。(中略)
また絵だけを丹念に
(注5)見ていると、絵のもつ雰囲気も調子も、文と合わせ見るときより、よくわかる気がします。そ して、それをつかんだあとで文を読むと、絵と文の関係がしっくりいって
(注6)いるかどうかが、はっきりわかります。登 場人物の服装とか、背景
(注7)とかの具体的な事実が、文と絵で違っていることがいけないのはもちろんですが、絵全体 の調子やムードが、物語のそれと合わないのは、絵本としては、②
大きな欠点です。
(松岡享子・東京子ども図書館『えほんのせかい こどものせかい』による)
(注1) 必然的に:ここでは、必ず
(注2) ~にとどめる:~のままにする
(注3) 装飾的な:飾りのような
(注4) 体裁:形式
(注5)丹念に:細かく注意しながら
(注6) しっくりいく:よく合う
(注7) 背景:ここでは、後ろの景色