(5)
 手紙というものは、不思議な伝達手段である。
 書いている人間の気持ちは必ずといっていいほど文面に出る。心配もしていないのに、心配を押し売りする(注1)ような手紙を書いてはいけない。
 そのような気持ちは封(注2)を開いた瞬間に、真っ先に相手に届いてしまう。それが手紙の一番に恐ろしいところと言えよう。
 愛している気持ちは届くかもしれないが、同時にその幼稚さや、愛の浅さや、性格の悪さまでも相手に届いてしまう。
 手紙というものは、人間の心を映す鏡のような存在でもある。

(辻仁成『代筆屋』による)


(注1) 心配を押し売りする:ここでは、心配していると思わせる
(注2)封:ここでは、封筒

1。 (59)筆者は手紙をどのようなものだと考えているか。