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 「きみに10億円やるから、好きなように使ってみなさい」
 そう言われたら、実は困ってしまう人がけっこう多いんじゃないだろうか。
 家を買って、車を買って、海外旅行して…。そんなみみっちい(注1)ことを考えていたら、10億円は使い切れない。個人が10億円使うというのは、実は大変なことである。
 「10億円あったら…」といつも考えながら、夢を描いてみたらどうだろう。
 といっても、10億円を手にする(注2)など想像したこともないから、最初はリアリティー(注3)を感じないだろう。しかし、じっと考えていると、心の奥底にしまっていた①“本当にやりたいこと”が見えてくるはずだ。それがあなたの夢である。
 「いくら夢を描いたところで、実際には10億円も稼げないんだから仕方ない」
 あなたは、そう考えるだろうか。それは違う。たしかに10億円稼ぐのは不可能かもしれない。しかし、②10億円の夢を描けば、10億円を手にすることは可能なのだ
 それは、あなたの夢に賛同する(注4)人があらわれるからだ。夢に向かっていくあなたの真摯な(注5)姿勢に賛同して「お金を出そう」と言い出す人もいるかもしれない。「一緒にやろう」と協力を申し出る人もいるかもしれない。夢とは、そのぐらい価値があり、人を動かすことができるものなのだ。
 大切なのは、10億円を稼ぐ人間になることではなく、10億円分の夢を描くこと。そしてその大きい夢に見合う(注6)だけの大きい人間になっておくことである。

(山本寛斎『熱き心―寛斎の熱血語10ヵ条』による)


(注1) みみっちい:ここでは、小さい
(注2) 手にする:ここでは、自分のものにする
(注3) リアリティーを感じない:現実感がない
(注4)~に賛同する:ここでは、~を理解して賛成する
(注5) 真摯な:まじめで一生懸命な
(注6) 見合う:釣り合う

1。 (63)①“本当にやりたいこと”が見えてくるはずだとあるが、どうすれば見えてくるか。

2。 (64)②10億円の夢を描けば、10億円を手にすることは可能なのだとあるが、なぜか。

3。 (65)この文章で筆者が言いたいことは何か。