(2)
私たちはなぜ観光をしたくなるのでしょうか。細かい条件にこだわらないで大胆に
(注1)述べるならば、それは「変化」を求めるということです。私たちの感覚は同じ刺激を受け続けていると、その強さ、性質、明瞭性などはしだいに弱まります。著しい場合には刺激の感覚が消失することもあり、①
こうしたことを感覚の順応といいます。風呂の湯の熱い温度や腕時計を付けたときの違和感
(注2)など、初めは鮮明な感覚であっても数分もしないうちに減衰
(注3)してしまいます。同様のことが日々の体験についてもいえるでしょう。
(中略)
よく言えば慣れてくる、 悪く言えば飽きてくるのです。そこで人は新たな刺激、つまり日常に存在しない感 覚や感動を求めるのです。そのために新しい刺激をもたらす
(注4)ための「変化」が必要になります。変わった珍しいコトやモノを手に入れても、日常生活がベース
(注5)になっていたのでは「変化」は日常の一部分にしかなりません。より劇的な「変化」を求めるには自らが「変化」の中へ入る、すなわち日常と離れた場所へ移動することでそれは達成されます。自分の家の近所へ移動した程度ではそれほどの変化は得られません。遠くへ離れれば離れるほと、見知らぬ
(注6) 町並み や自然の風景、聞き慣れない言葉や音楽、初めての味や香りなどが立ち表れてくるのです。外国で異文化に接するとき、この「変化」は最大になり、自分自身を除く周囲のすべてが「変化」した状態となるのです。
(堀川紀年・石川雄二・前田弘編『国際観光学を学ぶ人のために」による)
(注1) 大胆に、思い切って
(注2) 違和感: いつもと違う感じ
(注3)減衰する:ここでは、少しずつ弱くなっていく
(注4) もたらす: ここでは、生み出す
(注5) ベース:土台
(注6) 見知らぬ:見たことがない