この数十年の変化の中で、もっとも大きく変わったものは何かと問われると、私は人生の選択肢が飛躍的(注1)に増え、さらにその選択をする自由度が高まったことではないかと答えます。
(中略)
 親が決めたレールや、こうあるべきだという社会通念(注2)は、極端に少なくなり、どんな生き方も肯定される、そんな時代になったと思います。各人が自分の責任において、自分の生き方を選ぶことができるようになったのです。
 ところが、①この状況が人を幸せにしているとは必ずしも言えないというのが現状です。選択肢の数の増加と同じだけ、“これでいいのだろうか„„”という迷いも増えました。迷って選択ができない、あるいは選択したけれど間違ったと思う„„。 そんな人たちが増えてしまったのです。何かを得ようとして選択したことで、何かを失ってしまったかもしれない。本当は別の幸せがあったのかもしれないのに、自分はそのチャンスを逃してしまったのかもしれない。本当の自分は、こんな自分じゃなかったのではないだろうか。
 他の人とくらべて、自分の人生が劣っているのではないか、失敗だったのではないかと考えてしまう。こうやって自分を追い込み、自分の人生に自信がもてなくなる。そんな人をたくさん生んでしまったのではないでしょうか。 ②生き方なんてこれしかないと言われたほうが、実はラクなのかもしれません。 その中で、精一杯生きれば良いからです。でも、生き方はいくらでもあると言われたら、迷うのは当然のことだと思います。
でも大事なことはやはり、何をするかではなく、どう生きるかなのではないでし ょうか。どんな選択をしようと、これが正解だなんてものは誰にも決められません。 決められるとしたら、それは本人がそう思い込めるかだけです。
 だとすると、本人が自分の選択が良かったと素直に思える、あるいはその選択がど うであれ、自分は良く頑張った、精一杯やったと心から思えることが大切なのでは ないでしょうか。
 人生の選択肢の多さに惑わされないで(注3)ください。いま自分が何をしているかで、自分の人生を判断しないでください。大切なのは、何をしているのかではなく、どう生きているかなのですから。どう生きるかは、いまからでもすぐに変えら れるのですから。

(高橋克徳『潰れない生き方』による)


(注1)飛躍的に:大幅に
(注2)社会通念:広く社会に受け入れられている常識
(注3)惑わされないで:ここでは、迷わされないで

1。 (71)①この状況とはどんな状況か。

2。 (72)②生き方なんてこれしかないと言われたほうが、実はラクなのかもしれませんとあるが、なぜか。

3。 (73)この文章で筆者が最も言いたいことは何か。