(2)
イヌの散歩をしていると、最近ではイヌも挨拶の仕方を忘れてしまったのではないかと思ってしまいます。集団行動を経験したことがあるイヌ、もしくは
(注1) 、飼い主からイヌらしい教育を受けて順位制
(注2)を感じることができるようになったイヌは、道でほかのイヌにすれ違い近づいたときには挨拶らしいことをします。ところが、集団行動の経験もなく、家でも甘やかされて育ってイヌは。現代のヒト社会のように挨拶をしないように見えます。挨拶をするイヌが、ほかの挨拶なしのイヌに対して威嚇する
(注3)ことが観察されます。ところが、この挨拶犬が子イヌと遭遇したときには、子イヌが挨拶をできなくても威嚇をしないことが多いのです。挨拶犬にとって子イヌであるというシグナルがなんなのかわかりませんが、とにかく子イヌと成犬とを区別したうえで挨拶のあるなしを判断しているようです。
イヌの挨拶行動は、生得的
(注4)あるいは習得的(学習的) のどちらでしょうか?順位制にしたがった行動ができるようになったイヌでは、イヌ社会での経験がなくてもある程度の挨拶行動ができることから、生得的であるといえます。また、より儀式的な挨拶行動が円滑に
(注5)実行されるためには、ほかのイヌとの集団生活があったほうがよいことから、習得的な部分もあるといえるでしょう。
(針山孝彦『生き物たちの情報戦略------生存をかけた静かなる戦い』による)
(注1) もしくは:または
(注2) 順位制:上下関係にもとづいてできた順序の決まり
(注3) 威嚇する:ここでは、ほえて相手を怖がるせる
(注4) 生得的:生まれたときから持っている
(注5) 円滑に:スムーズに、滑らかに