A
社内にばかりいると、ビジネスマンとして人脈じんみゃく)(注1)も広がらない。そこで、セミナーや勉強会、講演会などに出かけて自己をみが磨いている人も多いはずだ。しかし意外と、あまりメモもとらず、「聞きっぱなし」という人も多いのではないだろうか。
 話を聞いているときは「なるほどなあ」と思っていても、それを的確にメモしてなければ、あとになって「あの話は何だったっけ」ということになる。人間は忘れやすい動物なのだ。
 では、こういうときのメモはどうすればいいか?
 基本的なことは、話の内容をいちいちすべてメモしまい、ということである。漫然まんぜん)(注2)と聞いて、話したことをすべてメモしていたら、核心かくしん)(注3)が見えなくなる。そこで、自分の仕事やライフスタイルに関係すること、本当に興味のあることしかメモしないのである。

(坂戸健司『メモの技術』による)


B
昔、ある大学者が、尋ねてきた同郷どうきょう)(注4)郷の後輩の大学生に、一字一句教授のことばをノートにとるのは(注5)ぐ愚だとおし訓えた。いまどきの大学で、ノートをとっている学生はいないけれども、戦前の講義といえば、一字一句ノートするのは常識であった。教授も、筆記に(注6)便なように、一句一句、ゆっくり話したものだ。
 その大学者はそういう時代に、全部ノートするのは結局頭によく入らないという点に気付いていたらしい。大事な数字のほかは、ごく要点だけをノートに記入する。その方がずっとよく印象に残るというのである。
字を書いていると、そちらに気をとられて、(注7)内容がおるすになりやすい。

(外出滋比古『思考の生理学』による)

(注1)人脈:人のつながり
(注2)漫然と:あまり注意しないで、なんとなく
(注3)核心:一番大切な部分
(注4)同郷の:同じ出身地の
(注5)愚だ:ばかだ
(注6)便なように:便利なように
(注7)内容がおるすになりやすい:内容に注意が向かなくなりやすい

1。 (69)Aは、なぜメモをとることを勧めているのか。

2。 (70)AとBで共通して述べられていることは何か。