(2)
 寒さを防ぐ便利な道具であるにもかかわらず、人類は歴史のほとんどの期間を通じて、ボタンを知らずにすごした。(中略)日本人は着物を帯で締めていた。古代ローマ人は確かに衣服の飾りとしてのボタンは使ったが、ボタンに穴をあけるという発想が欠けていた。また古代(注1)中国では紐に棒を通しはしたものの、一歩進んでボタンとボタン穴を発明することはなかった。①こちらの方がより単純で便利であるのに、だ。
 ところが、十三世紀に入ると、突如として(注2)北ヨーロッパでボタン― ―より正確にはボタンとボタン穴――が出現した。この、あまりにも単純かつ精巧な(注3)組み合わせがどのように発明されたのかは、謎である。料学上の、あるいは技術上の大発展があったから、というわけではない。ボタンは木や動物の角や骨で簡単に作ることができるし、布に穴をあければボタン穴のできあがりだ。それでも、このきわめて単純な仕掛け(注4)を作り出すのに必要とされた発想の一大飛躍(注5)たるや、②たいへんなものである。ボタンを留めたりはずしたりするときの、指を動かしたりひねったりする動きを言葉で説明してみてほしい。きっと、その複雑さに驚くはずだ。ボタンのもうひとつの謎は、それがいかにして見出されたか、である。だって、ボタンが徐々に発展していった様子など、③とても想像できないではないか。つまり、ボタンは存在したか、しなかったかのどちらかしかないのだ。
(注1)古代:古い時代
(注2)突如として:突然に
(注3)精巧な:細かくてよくできている
(注4)仕掛け:何かをするための装置
(注5)飛躍:急に進歩する

1。 (63)①こちらの方」とあるが、何を指しているか。

2。 (64)②たいへんなものであるとあるが、なぜそういえるのか。

3。 (65)③とても想像できないではないかとあるが、どうしてか。