児童書の編集者から、「小学生向けの“友達との付き合い方”の本が売れ ているんですよ」と聞いた。
子供のいない私には何のことかよくわからなかったのだが、書店に行ってみると、確かに、「仲間」とか「友達」と表紙に書かれた本がいっぱいある。 かわいらしいイラストがふんだんに(注1)使われた本には、「はじめて 話しかける時には」「ケンカしたときにメールで仲直りするには」など、友達 づき合いに関するありとあらゆるアドバイスや情報が書かれていた。絵の感じからして、主に女子が読むのだろうか。
「いつの時代も友達って大切なんだな」と思いながらも、「でも、( A )」 と少し複雑な気分になった。
私自身も子供のころ、同じクラスの親友とうまくいかなくなって悩んだもあったが、それを解決してくれる本はなかった。「あのときはどうしたんだっ け」と考えてみたが、思い出せない。
なんとなくうやむや(注2)になり、そのうち別々の中学に進んだのでそのままになった気がする。 ただ、今でもその友達とは、年賀状やメールをやり取りする仲だ。つまり、①時間が解決してくれた、というわけだ。 それに比べると今の子供たちは、問題をその場ですぐに解決しようとするのだろうか。気になる子にはすぐ話しかけて、ちょっと気まずく(注3)なったらすぐにメールで解決。「まあ、いいか」とほうっておくことはできないの かもしれない。
そういえば、診察室にやって来る人の中にも、「私の問題を解決するのに役立つ本を紹介してください」と言う人がいる。「時間を無駄にしたくないん です。病院の帰りに本屋さんに寄って買いますから、心理学の入門書を教えてください」と“前のめり”(注4)になる人に、「そのあせる(注5)気持ち が一番いけません」と言いたくなることもある。
あたりまえのことだが、世の中のことや人生の問題には、本を読んですぐ 解決できることと、できないことがある。本は、「へー、こんな考え方もあるのか」とあくまで参考程度にして、その通りにやったらなんでも解決、と期待 し過ぎないほうがいい。
“友達本”を読む小学生たちはどうなるのだろう。「これを試してうまくいかなかったらもうおしまい」などと思わずに、ちょっと楽しむくらいの気持 ちで読むならいいのだが。たくさんの本の山を前に、書店で考え込んでしまっ た。
(注1) ふんだんに:非常にたくさん
(注2) うやむや:あいまい
(注3) 気まずい:お互いの気持ちがうまくあわない
(注4) 前のめり:前に向かって傾くこと
(注5) あせる:早くしようと気持ちが急ぐ