(2)米国において仕事するときに英語で話すのはしょうがないとしても、日本 にきている外国人が日本語を話さず、荒稼ぎしているのは、私は正直いって解せない(注1)ものを感じます。(中略)そういう外国人を、①自分の英語で助けてしまっていることは、とにかくくやしいのです。 私は、前の会社にいたときに、この自分の非合理なナショナリズムに従って②ささやかな意地悪をしました。同僚の川上さんと話して、本社から来た米国人を餌食にしました(注2)。彼が日本の顧客のところに一緒にいきたいと いうので連れていく機会を使ったのです。
私達が顧客と話す日本語を、彼には一切通訳しませんでした。顧客の方は英語を話さないし、私の会社の本社のことなど眼中にないのですから、かわい そうな外国人は、二時間ほど、私達の議論のうず(注3)の中で、ぽかんとす わっていました。終わってからも彼が質問したことには答えましたが、一切こ っちからは解説しませんでした。ちょっと悪いことをしたかなとは思いました が。(中略)
わざわざこんなことを書いているのは、私達が、英語を話すときに、「日 本語のできない人のために、こっちがわざわざ英語を話してやっているのだ」 という気持ちをどこかでもっておくことは、③当然だと考えるからです。この 考えは、ある種の正当な(注4)優越感(注5)といえないでしょうか。これ さえあれば、へたでも何でも、堂々と(注6)話すことができます。
(注 1)解せない:納得できない
(注 2)議論のうず:激しい議論のたとえ
(注3)餌食にする:ある目的の対象として被害を与える
(注 4)正当な:正しい
(注 5)優越感:自分の方が優れているという感情
(注 6)堂々と:恐れたり隠れたりすることなく