国内旅行中、新幹線で隣り合った男性と世間話をしていたら、実は彼の恋人がよく昼ご飯を食べに行くレストランが、自分の妻の友人が経営する店だったーー。こういう出来事に出くわすと、人は「世間って狭いもんだねえ」と感激し、なにか運命的なつながりを感じるものである。もし、この2人が男女であったりすれば、この運命的な偶然の一致をきっかけに距離が急速に近くなり、場合によっては結婚に発展することだって十分にありうる。
 だが、①こうした出会いというのは本当に運命的なのだろうか
 仮に日本の人口を1億人として、一人一人が1,500人ずつの知人を持ち、彼らが全国に散らばっているとする。そして、どこかで出会った見知らぬ人と、②間に2人の人間をはさんでなんらかのつながりがある確率はほほ100%に近いのである。
 それでも冒頭のような出来事にめったにお目にかからないのは、平均的な日本人に知人が1,500人もいないとか、その知人が全国に散らばっていないということもあるが、なによりもお互いに自分のすべての知人について語り合うということがないからだ。
 根気よく世間話を続ければ、「実はお互いの知人同士が知人」という確率は、私たちが思っている以上に高い。世間は本当に狭いのである。
 ③ある心理学者がこんな実験をした。彼は無作為に選んだ人たちに書類を渡し、それを「Aさんに届けてほしい」と依頼した。書類を渡された人たちは、AさんとはまったAさんとはまったく面識はないし、共通の友人・知人もいない。その学者は「目標の人物をもっとも知っていそうな知人に書類を渡し、書類を受け取った人はさらにその知人へと、その人物にたどりつくまで同じことをくり返すように」と指示したのだ。こうしたサンプルを数多く集めることで、見知らぬ同士が何人の人をはさんでつながりを持っているかを調べようとしたわけだ。
 結果は「知らない人同士の間に介在する人の数は2~10人。5人がもっとも平均的」というものであった。つまり、どんなにエラい(注1)人や有名なスターでも、彼らとあなたの間はわずか数人の人たちによって隔てられているに過ぎず、何かのきっかけで彼らと知り合いになる可能性はあるし、逆に彼らに関するさまざまな情報や秘密がウヮサ(注2)として伝わってくることもあるはずだ。確率の世界では、世間というのは我々が考えている以上に狭くて、人びとがひそ)かに関連しあう空間なのである。

(田中義厚確率」の人生判青春出版社)

(注1)工ラい:偉い
(注2)ウワサ:噂

1。 (9)①こうした出会いというのは本当に運命的なのだろうかとあるが、筆者は確率から考えて、こうした出会いをどうとら)えているか。

2。 (10)②間に2人の人間をはさんでなんらかのつながりがあるとは、具体的にどういうことか。

3。 (11)③ある心理学者がこんな実験をしたとあるが、筆者はその結果についてどのように考えているか。

4。 (12)筆者が考えている、運命的な出会いが少ない最も大きい原因は何か。