日本の小惑星探査機「はやぶさ」が持ち帰った微粒子が、小惑星イトカワのものであることが確認された。月より遠い天体に着陸し、採取した物質を人類が手にするのは初めてのことだ。宇宙探査の歴史に残る快挙といっていい。
イトカワまでの距離は、地球から太陽までの距離の2倍に当たる約3億キロもあった。はるか①
遠来の使者は何を語ってくれるだろうか。小惑星は46億年前に太陽系が誕生したときの名残をとどめているとされ、太陽系の化石ともいわれる天体だ。微粒子はこれから、日本国内だけでなく世界中の研究者に分配されてくわしく分析される。イトカワの生い立ちはもちろん、それを通して太陽系の起源に迫る成果を期待したい。
今回、はやぶさのカプセルから見つかったのは細かな砂のようなもので、0.01ミリ以下の極微粒子約1500個に加え、やや大きいものもあった。弾丸を発射してイトカワの表面の物質を飛ばす装置は働かなかったが、着陸の衝撃で舞い上がった砂粒がカプセルにうまく入ってくれたようだ。
目には見えない物質を分析チームの研究者がていねいに集めて分析した。鉱物の組成は地球の物質と異なって
隕石に似ており、イトカワの観測から予想された成分とも一致することを確かめた。量はごくわずかだが、最新の装置を使えば、ほぼ予定通りの分析ができそうという。
道のり60億キロに及ぶ旅の途中で交信が途切れ、エンジンも故障した。南天を赤く燃やした、この6月のはやぶさの奇跡的な帰還は記憶に新しい。
プロジェクトを率いた宇宙航空研究開発機常の川回淳一郎教授が「帰ってきただけでも夢のようだったのに、さらにその上」というように、ちっぽけな「はやぶさ君」は②
今度もまた、うれしい方へ予想を裏切ってくれた。「あっぱれ」というしかない。
はやぶさの構想は四半世紀前、若い研究者の挑戦から始まった。計画の着手からも15年かかった。川口さんはさらに「宇宙科学研究所として40年以上に及ぷ積み重ねがあってこそです」という。加えて、野心的な目標と、高い技術力、研究者たちの献身的な努力が「オンリーワン」の成果を生んだ。
野心的な計画は、若者たちにとって多くを学ぶ場にもなったことだろう。だが、アジア諸国が研究に力を入れる今、日本の科学は陰りも言われる。
私たちはなぜ、自然科学の探求を続けるのか。すぐに実利に結びつくわけではないが、知を求める不断の情熱が人類を進歩させてきたことは疑いない。時代に応した予算のバランスをとりつつ、若者が研究に打ち込み、存分に独創性を発揮できるような研究環境を整えていく必要がある。
(朝日新聞2010年11月18日付 社税による)