疲労には二つの顔がある。悪下疲労と善玉疲労である。疲れてくると作業能力は低下し、気持ちはいら立ってくる。疲れがたまれば食欲不振や睡眠不足になり、ひいては病的状態に陥ることがある。これが疲労の悪玉たる所以ゆえん)(注1)である。
 今日の省力化や機械化の作業環境は、悪玉疲労から逃れる方策として生まれてきたものといえる。ところが高度に機械化された社会では、人間は単純で動きのない作業に従事し、精神的な緊張だけが求められる労働条件におかれている。そのために精神的な疲労が主役としてスポットライトをあびるようになってきた。筋肉労働が中心であったころには筋肉の疲労が主役であったが、今日では①精神の疲労に主役が交代したのである。疲労は、いつの時代にも姿や型をかえて登場してくるのである。

(矢部京之助「疲労と体力の科学 健康づくりのための上手な疲れ方」講談社)

(注1)所以ゆえん):わけ、理由

1。 (1)①精神の疲労に主役が交代したのはなぜか。