最近私が腹が立ったのは、小中学校の国語の教科書に対してだ。中学校の教科書から
漱石・
鷗外(注1)が消えたのはニュースになった。しかし、それ以前から小中の国語の教科書は質量ともに薄かった。驚くほど幼稚な文章ばかりだ。世界の文学や批評は皆無に近く、グローバル化に逆行している。
これでは、硬くて栄養のある言葉から栄養を吸収するだけの強いアゴと腸が鍛えられない。ファーストフードのような柔らかいものばかりでアゴが弱くなってきているが、言葉を
嚙み締めるアゴの力も弱められている。国語教科書が①
ハンバーガーになってしまっているのだ。
文章はすべての意味がわからなくてもいい。幼児にモーツァルトを聴かせるように、子どもに総ルビ
(注2)で最高の日本語をはじめから与えるべきだ。
暗誦(注3)や
素読(注4)の文化が
培った感性は、生涯にわたって生きる。「満足できるわからなさ」には味がある。
(齋藤孝「「するめ」をかみしめよう」「ああ、腹立つ」新潮社)
(注1)
漱石・
鷗外:
夏目漱石、
森鷗外。器明治・大正期に活躍した日本を代表する小説家
(注2)総ルビ:漢字全部にふりがなをつけること
(注3)
暗誦:文章を記憶して、それを口に出して言うこと
(注4)
素読:文章の意味を考えずに、声を出して文字だけを読むこと