たとえば、タバコは体に悪いからもうやめようと決心しても、なかなかやめられなかったり、ダイエットを決意して間食はやめようと決めても、目の前にケーキを出されるとつい食べてしまったりするのはなぜなのか。
 多くの人の答えは、「意志が弱い」かいうものである。また、英会話を習得するために、毎日テレビの英語番組を見ようと決めたのに3日もつづかない。「どうせやる気がない」からとか「本気じゃない」からだと考える。また、人前ではっきり自分の意見を言えず、われながらじれったいと思う人もいる。なぜだろう。「))思案じあん)(注1)」だから、あるいは「気が小さい」からだろうか? 
 このように、「意志の弱さ」「やる気のなさ」「引っ込み思案な性格」というものを、行動の原因として考える人は多い。しかし、意志とか、やる気とか、性格というのはいったい何なのだろう。
 そもそも、自分も含めて、ある人が行儀がいいとか悪いとか、意志が強いとか弱いとか、やる気があるとかないとか、引っ込み思案なのか度胸がある(注2)のか、ということがなぜわかるのかを考えてみたい。禁煙を決意しながらタバコに手が伸びてしまうのは、意志が弱いからだった。では、なぜ、その人の音志は弱いといえるのだろうか。それは、タバコをやめようと思っているのにやめられないからである。どこか変ではないか。
 おかしい理由は2つある。タバコをやめられないことと、意志が弱いこととが循環論に陥っていることが1つ。もう1つは、意志が弱いというのは、タバコを吸う原因ではなく、禁煙を決意したのにタバコを吸っていることを別の言葉で言い換えたにすぎないのである。

(杉山尚子「行動分析学入門」集英社)

(注1)))思案じあん):積極的に何かをするのが苦手な性格
(注2)度胸がある:物事を恐れない強い精神力がある

1。 (1)この文章で筆者が最も言いたいことは何か。