では、いったい、装飾という面から見た、人間と動物との決定的な違いは、どういう点にあるのであろうか。
 このことについて、おもしろい意見を述べている人は、名高い「衣装論」を書いたエリック・ギルである。ギルの意見によると、人間と動物との違いは、人間が服を着ている点にあるのではなくて、むしろ人間が服を脱ぐことができる点にある、というのだ。
 動物にも、立派な服を着ている種族は多いのだけれども、人間が人間たる所以ゆえん)(注1)のものは、自分の意志で、気の向くままに、服を着たり脱いだりすることができる自由、自分の好みに合わなければ、さっさと服を脱ぎ替え自由をもっている点にある。つまり、人間は、自分を満足させるために服を着るのであって、動物には、そういう自由はない、という意味なのである。
 なるほど、そういわれてみれば、その通りにちがいなく、これは当たり前すぎるほど当たり前の話ではないか。ただ、「服を脱ぐ」という点にポイントを置いたところがおもしろく、こういう意見を、パラドックス(逆説)というのであろう。
 着物ばかりではない。人間は室内装飾においても、住宅においても、アクセサリーにおいても、また髪型や化粧においても、自分の好みに合わせて、自由にこれを採用したり捨てたりすることができる。それだからまた楽しいのだ。異性との交友の場合だって、その通りだといったら叱られるだろうか。

(澁澤龍彦ー夢のある部屋」河出書房新社)

(注1)所以:わけ、理由

1。 (1)この文章で筆者が最も言いたいことは何か。