明治二十年代は、日本の近代文学史上、最初の女性作家の時代でした。(中略)そのような歴史の流れのなかで、明治時代、とくに二十年代を一つの画期として、女性作家たちが次々と登場するようになったのはなぜでしょうか。
ーつには、西洋思想の影響によって、女性たちをとりまく状況が変化したことがあげられます。明治初期を代表する
啓蒙的(注1)な知識人たち一
福沢諭吉・
中村正直・
森有礼ら一は、西洋思想の影響を受け、女性たちの社会的な覚醒
(注2)や地位向上が日本の近代化にとって重要な意義を持つことを認識し、雑誌その他のメディアを使って、女性の地位向上の必要性を説きました。新時代の指導的立場を自認する人々が開明的な女性論を展開していくなか、女性の社会進出を受けいれる精神的な土壌が、不十分ではありましたが用意されつつありました。
そして、何より強調すべきは、女子教育の成立です。明治の女性作家の第一世代は、その多くが女学校での新しい教育を受けた人々でした。明治十年代を中心とする多くの女学校の創立は、それまでの日本には存在しなかったく女学生〉という新しい層を生み出しました。女学生の絶対数が増加すれば、彼女たちを対象とした雑誌も次々と刊行されるようになります。女性たち自身の内面的な覚醒は、外的・内的条件の両面から促されていきました。、このような中で、自ら語る主体であろうとする女性たちが
文壇に登場し始めたのです。
(菅聡子ほか「明治大正昭和に生きた女性作家たち一木村曙樋口一葉金子みす 尾崎翠 野溝七生子 円地文子」お茶の水学術事業会)
(注1)
啓蒙的:人々に新しい知識を与え教え導く
(注2)覚醒:目を覚ますこと