赤ちゃんが無事に誕生して、生まれて初めて見せる笑い、それを「エンジェル・スマイル」と言ってきた。どんな赤ちゃんにも現れるという。授乳を受け安心してすやすやと眠っているときに見られであるが、この何とも言えない微笑を見て、親が「笑った!笑った!」と反応して喜ぶ。もちろん赤ちゃんに親の反応が分かるはずもないが、この微笑は、赤ちゃんがこの世に出てきて、初めて親に示す挨拶ではないか、と私は解釈したい。親を喜ばせ、よろしくお願いしますというサインではないかと考えるのである。人間は、一人では生きられず、生まれたての赤ちゃんは全く無力で、親の世話がなければ生きられない存在である。だからこそ、微笑が親へと送られるのだ。そういう仕組みが人間の遺伝子に刷り込まれてあるのだと考えたい。私は、人間が生得的
(注1)に備えた「笑いの能力」はまず、新生児の微笑から顕在化
(注2)すると考える。そして、その微笑が、人間関係の最初に位物するところの笑いと考えておきたいのである。
この新生児微笑は、人によってはまったく問題にもされず、一種の生理的
痙攣(注3)であると言う人がいる。私は、ある助産婦さんにこの赤ちゃんの微笑はどのようにとらえていますかと尋ねたところ、その方は先輩たちから「神さんが笑わせている」と教えられてきて、痙攣などと思ったことはないと言う。「神さんが笑わせている」という表現は言い得て
妙(注4)である。
(井上宏「笑い学のすすめ」世界思想社)
(注1)生得的:生まれつき持っている (注2)顕在化:はっきり表れること
(注3)
痙攣:筋肉が発作的に細かく動くこと(注4)言い得て
妙:うまい言い方