昭和四十年代の庶民には、家族そろってデパートへ出かけるという日曜日の娯楽があった(平成の今日においては、たんなる買いものにすぎず、娯楽とは呼ばないだろう)。(中略)
そうした日曜日を、子どもは「おでかけ」と呼び、まえの週のうちから「こんどの日曜日」を楽しみにして、ふだん着とはちがう「よそゆき」でめかしこんで
(注1)家をでる。ハンドバッグをさげ、帽子をかぶり、運動靴ではないエナメルのベルトつきの靴をはく。
昭和四十年代のデパートとは、おとなも子どもも、それなりのおしやれをして出かけるところだった。ののつつましく、ささやかな幸福の感じは、バブル期以降に子ども時代を過ごした人には、まったく伝わらないと思う。昭和四十年代の多くの人々にとってのおしゃれとは、白いものは白く、磨くべきものは磨き、アイロンできちんとしわをのばし、しゃんとすべきときには
背筋をのばすことであって、ぜいたくな衣装で着飾ることではなかった。
(長野まゆみ「あのころのデパートよそゆきと、おでかけ」『yomyom』 2010年10月号新潮社)
(注1)めかしこむ:がんばって、おしやれをする