現代社会は進んでいて、世のなかも豊かになっているのだから、子供たちにとっても、昔よりもずっといい環境になっているはずだと、大人は思いがちですが、現実はそうではないのです。それはいま述べてきたように、消費社会の実現が、まさに過剰な欲望を生み出してきたからです。その過刺な欲望をわれわれはコントロールできなくなっているのです。①
それが衝動(注1)を突出させることになります。
さらに、個人主義が行き過ぎた面があります。何でも自分のやりたいことをやるのがいいのだという
風潮(注2)です、今や子供の議牲になりたくないという女性がふえています。子育てに時間や労力をとられることを、子供の犠牲になっていると受け取るのです。
「ほんうは、私にはもっとやりたいことがあるのに」というわけです。子供を保育園などに預けて働く女性もふえています。それがそのまま幼児期のしつけの低下に結び付くというのではありませんが、子供にかかわる時間はやはり少なくなるのは確かです。そこで、共働きのような場合には、短い時間でも密接に子供とかかわる、父親が育児のある部分を負担するという工夫も必要になってくるわけです。
また、専業主婦であっても、子育てのストレスを解消するために、趣味や習い事、あるいは時にはパチンコなどで
憂さを晴らす
(注3)という人も多くなっています。子供が生まれても,女性の関心は、子供以外のいろいろなところに向けられています。その背景には、やはり子供の犠牲れになりたくない、自分は自分の世界があるのだという、個人主義が
浸透(注4)したがゆえの、女性の自立の問題がかかわっています。
さらに、離婚もふえています。相手を嫌いになったら、簡単に別れればいいという風潮です。かつては、間題があっても、子供のために離婚しないという女性も多かったものです。②
それがいいというわけではありませんが、今は、子供がいても、簡単に離婚します。そのときには、子供が邪魔な存在となってしまいます。離婚すれば、家底は混乱して、なかなか
一貫した
(注5)育児ができません。子供になえる影響も大きいのです。
もちろん、日本にはまだ子供を大切にするという風潮は残っていますが、豊かなゆえにかえって、自分の生きがいを求めて自己本位になってしまっている面があるのです。それが離婚の増加や育児能力の低下を招いているということは否定できないことです。そういうことを考えると、まさに、豊かであるがゆえに育児能力が低下して、③
衛動的な若者が多なっているといえます。そして、それがまた青少年の犯罪の増加、
凶悪(注6)化につながっているというのが現状なのです。
(町沢静夫日『「自己チュー」人間の時代』双社)
(注1)
衝動:突然あることをしたくなって、抑えることができない気持ち
(注2)
風潮:その時代の傾向
(注3)
憂さを晴らす:
憂鬱な気持ち、いやな気持ちを消す
(注4)
浸透する:多くの人にだんだん広がる
(注5)
一貫する:始めからわりまで一つの考え方で行う
(注6)
凶悪(な) :非常に悪いことを平気で行うこと